帝王切開は、産道を通らず産婦さんのお腹と子宮を切開し、赤ちゃんを直接取り出す方法です。日本では医学的な理由がなく実施することはできないため、経膣分娩では母体や赤ちゃんに危険が及ぶと判断された場合に行われます。帝王切開が実施される比率は病院で25.8%、診療所で14%(2017年、厚生労働省発)となっています。また、帝王切開での出産の割合は、増加傾向にあります。
帝王切開は、妊婦検診の段階で決定し計画的に行われる予定帝王切開、妊娠中や分娩時の緊急事態に行われる緊急帝王切開の2種類あります。
近年、出産の高齢化に伴い、合併症などによる分娩リスクの高まりから、帝王切開を選択される傾向が増えてきています。帝王切開は、母体と胎児の両方の安全性を高め、出産できることが最大のメリットと言われていますが、一方で経腟分娩と比べ「産後の母体(子宮)の回復が遅い」、「入院期間が長い」といったデメリットもあります。
予定帝王切開の場合、妊娠37週を過ぎて、赤ちゃんがいつ生まれてもいい状態になってから手術日を決めます。多くの場合、手術日前日の入院になります。緊急帝王切開の場合、母体や胎児の状態によってはすぐに手術になることもあります。
●手術前の準備
多くの場合、前日に入院し、検査や手術の詳しい説明を受けてから同意書の提出し、麻酔科医の診察や手術時間前に点滴などを行います。
●麻酔
通常、帝王切開は局所麻酔で実施されるため、腰椎麻酔または硬膜外麻酔という麻酔法で手術を行います。背中の脊椎から麻酔を投入し、胸の下あたりから足まで麻酔をかけます。局所麻酔は、痛みを感じませんが、妊婦さんの意識がある状態で手術を行います。
全身麻酔での帝王切開の場合、点滴で全身に麻酔をかけるため、すぐに麻酔がかかります。緊急の場合、全身麻酔で帝王切開を行うことが多いです。全身麻酔の場合、妊婦さんの意識はなく、また赤ちゃんが眠った状態で生まれることもあります。
●手術(赤ちゃんの取り出し)
麻酔が完全に効いているか確認をし、医師の判断でお腹(皮膚)を縦か横に切開します。子宮壁を切開し、赤ちゃんを取り出してから臍の緒を切ります。順調にいけば手術開始から5分程度で生まれます。
<方法>
横切開
傷が目立ちにくく、一般的に行われる切開法です。皮膚から筋膜までを横に切開し、その下の腹膜は縦に切開し、子宮壁は再び横切開します。縦切開に比べて時間がかかるため、トラブルの可能性の低い予定帝王切開分娩の場合に選択される傾向があります。
縦切開
臍の下から恥骨に向かって切開します。皮膚から腹膜までは縦に切りますが、子宮壁は横に切ります。手術時間が短く、赤ちゃんを早く安全に取り出せるため、緊急時には縦切開が選択される傾向があります。
●手術(処置、縫合)
赤ちゃんを取り出した後、子宮内の胎盤を取り出します。子宮内の胎盤を取り出した後、子宮壁を溶ける糸で縫合します。子宮の止血を確認した後、腹膜、筋膜、皮下組織、皮膚の順に縫合していきます。皮膚縫合は施設により方法は異なりますが、医療用のスキンステイプラ―(ホチキスのようなもの)で留めたり、医療用テープで固定したりすることが多いです。また、子宮縫合後には子宮と腹膜が癒着しないように、癒着防止材を貼付することもあります。子宮と腹壁が癒着した場合、お腹が引っ張られるような感覚や疼痛を引き起こす可能性があります。術後にお腹に違和感がある方は医師に相談しましょう。
●術後確認
手術後、血圧、脈拍、呼吸の状態などを確認します。出血の経過を観察し、異常がなければ入院室へ移動します。
妊婦健診で自然分娩が難しいと判断された合、予定帝王切開を行います。予定帝王切開になる主な理由は以下のとおりです。
●逆子など(骨盤位)
通常、赤ちゃんは子宮の中で頭を下にした姿勢で丸くなっています。しかし、逆子(骨盤位)の場合、赤ちゃんは頭を上にした姿勢となっています。このまま経腟分娩を行うと一番大きな頭が骨盤に引っかかってしまうリスクや臍の緒が先に子宮外に出ることによって胎児が低酸素状態になる可能性があるため、お産が近づいても直らない場合。
●児頭骨盤不均衡
赤ちゃんの頭が母体の骨盤よりも大きい場合や骨盤の形によって産道をうまく通過できないと判断した場合。
●多胎妊娠
双子や三つ子以上の場合、臍の緒が先に子宮外に出てしまう可能性や、赤ちゃんの向きによっては出てきにくい、また一人目が生まれた後に陣痛が止まってしまうリスクや母体への負担も大きい場合。
●前置胎盤・低置胎盤
胎盤が子宮口をふさいでしまっている状態(前置胎盤)や子宮口にかかっている(低置胎盤)状態の場合。
●既往手術歴
子宮筋腫やすでに帝王切開などの子宮の手術をしたことがある場合。
●妊娠高血圧症候群
重症の妊娠高血圧症候群により赤ちゃんに栄養や酸素が届きにくくなった場合。
●産道感染
ヘルペスなどの感染症が出産予定日までに完治していない場合。
●持病
心臓病や腎臓病など、経腟分娩を行うと母体に負担がかかる持病があると判断された場合。
分娩中に母児へのリスクが高いと判断された場合、帝王切開に移行することがあります。緊急帝王切開へ移行する場合、帝王切開になることを妊婦さんにお伝えし、意思を確認します。移行への承諾後、すぐに全身麻酔をかけ、帝王切開で赤ちゃんを取り出します。緊急帝王切開に移行する場合の主な理由をご紹介します。
●遷延分娩
お産が長引くことにより、母児にリスクが発生すると判断された場合。
●常位胎盤早期剥離
赤ちゃんが母体から出る前に胎盤が剥がれてしまう場合。
●胎児機能不全
妊娠中毒症(母体の妊娠高血圧症候群)や臍帯、胎盤早期剥離などが原因でお腹の中の赤ちゃんが低酸素状態になり、赤ちゃんの健康に異常を生じる可能性があると判断される場合。